「全部できます」と即答するAIベンダーから、買ってはいけない

執筆者
カラクリの小田です。
先日、王子ネピアのお客様相談室・藤澤様を取材する機会がありました。そこでお伺いした話が、ここ数年で一番、AIベンダー選定の構造を言い当てていたので、今回はその話を書きます。
大企業のコンタクトセンターの話なのですが、構造としては中小企業のAI導入にもそのまま当てはまる、というより、むしろ中小企業のほうが切実な話だと思っています。
ペラ2枚に、各社はどう答えたか
藤澤様は、チャットボット導入の比較検討にあたり、各社に同じ資料を渡したそうです。困りごとを書き出したペラ2枚。「この中でAIで解決できることはありますか」と投げかけた。
ほとんどの会社が、こう答えたそうです。
「全部できます」「うちで大丈夫です」
これが、いまAIベンダー選定の現場で起きていることです。そして、これは大企業に限った話ではありません。むしろ中小企業のほうが、こうした「全部できます」営業に当たる確率は高い。情シス担当が1〜2人、もしくは兼任、というケースでは、検証の手間も限られます。「全部できます」と言われたら、そこから先を深掘りする時間そのものがない、というのが現実だと思います。
「できる」のレベル感は、3つある
私自身、AI業界の一員として耳が痛い話でもあります。技術的には、たぶん本当に「できる」のだと思います。生成AIの汎用性は高く、何かしらの答えは返せる。
ただ、問題は別のところにあります。「できる」と「やるべき」が違うこと。キーワード「できる」と一口に言っても、レベル感がまるで違うこと。
「動きはする」レベルの「できる」、「業務に乗せられる」レベルの「できる」、「3年運用に耐える」レベルの「できる」。これらは全部、別物です。デモで動くのと、現場で毎日使えるのと、3年後も使い続けられるのは、まったく別の話。
中小企業の場合、ここで「動きはする」レベルを掴まされると、致命的です。大企業のように、運用担当を10人配置して人力でカバーする、ということができない。「業務に乗せられる」を最低ラインに据える必要があるのに、ベンダー側はそこを区別せずに「できます」と言ってくる。
即答できる人ほど、自分の「できる」がどのレベルを指しているか、おそらく言語化できていません。ペラ2枚を見た瞬間に「全部できます」と返せるベンダーは、その2枚を読んでいません。読んでいないから、「これにはお金がかかります」「これは自分たちでやったほうが安いです」「これは正直、いまのフェーズでは要りません」という分解ができない。
「全部できます」だけじゃない、いま流行りの手口
「全部できます」は、まだ分かりやすい方です。最近の営業はもう少し巧妙で、こちらの不安や情報不足を突いてくる。中小企業の経営者・情シスの方から聞く話を整理すると、ざっくり4つのパターンがあります。
1.「セキュリティが万全」高値転売型
ChatGPT や Google の標準機能で、無料、もしくは月数千円でできることを、独自のラッパーで包んで「こちらはセキュリティが万全なので」という謎の説明と一緒に、月数十万円で売ってくるパターン。
機能的にはむしろ劣化していることも多い。出力品質も応答速度も ChatGPT 本家のほうが上、というケースが普通にあります。「セキュリティ」は便利な言葉で、専門家でないと反論しづらい。だからこそ、ここで思考停止してはいけない領域です。具体的に「何のデータが、どこに、どう保管されて、本家 ChatGPT と何が違うのか」を聞いて、明確に答えられないなら、それは中身がないということです。
2.「まずは研修から」高額コンテンツ型
「いきなり導入は危険なので、まずは社内研修から始めましょう」。これ自体は正論に聞こえます。問題は、出てくる研修の中身が、YouTubeで無料公開されている動画や、noteの無料記事に書かれていることと、ほぼ変わらないこと。それを、社員1人あたり数万円、全社で数十万円〜数百万円で売ってくる。
研修コンテンツ自体に価値がないわけではありません。ただ、「無料で手に入る情報を、有料で買っているだけ」になっていないかは、必ず確認した方がいい。事前に講師名で検索して、その人がYouTubeやSNSで発信している無料コンテンツを見てみる。それと有料研修の内容が大きく変わらないなら、お金を払う意味はありません。
3.「補助金が出るので、社長やりましょう」型
これは一番タチが悪いと思っています。「IT導入補助金が使えるので、実質負担は3分の1ですよ」「いま申請すれば間に合います」と急かしてくる。補助金が出ること自体は事実だとしても、要件を満たしているか、後から制裁を受けないか、ベンダー側はあまり気にしていない、というケースが見受けられます。
補助金は出してもらえるお金ですが、出した後に「使途が要件を満たしていない」と判断されれば返還を求められます。最悪の場合、不正受給扱いになる可能性もある。社長が「補助金が出るならやろう」と判断しても、後から面倒を見るのはベンダーではなく、社内の経理や情シスです。「補助金があるから安いです」を口説き文句にしてくる相手は、その後の責任を一緒に取ってはくれません。
4.「学ぶ姿勢のあるメンバーだけ」コミュニティ型
最後がこれ。「とりあえずコミュニティに入っておきましょう、月10万円です。学ぶ姿勢のあるメンバーだけで、有益で、誰も辞めていません」というやつ。本当か嘘か検証する手段がない、というのが特徴です。「誰も辞めていない」は、入ってからじゃないと確認できない。
「Claude Code をやらないとやばい」「いまAIエージェントに乗り遅れたら終わり」みたいな不安煽り型も、同じ系統です。中身があるコミュニティもありますが、「不安を煽って契約させ、入った後の価値提供は曖昧」という構造のものは、月10万円どころか月3万円でも高い。少なくとも、入る前に「具体的に何が手に入るのか」を、加入済みの第三者(紹介者ではない人)に聞いてから判断するべきです。
藤澤様が、最後に選定で見たもの
話を戻します。藤澤様が選定で重視したのは、機能でも価格でもなく、「やらないほうがいい領域」を提示できるかどうかでした。
これは小さな話に見えて、構造が逆転しています。多くのSaaS営業は、自社製品で解ける範囲を最大に見せようとします。逆を提示できるベンダーは、顧客の業務を自社製品より上位に置いている、ということです。
中小企業のAI導入で、これは特に効きます。理由はシンプルで、予算と人手が限られているから。
「全部やる」は無理だし、やる必要もない。本当に効果が出る1〜2領域に絞って、それ以外は「やらない」と決められるかどうかで、導入の成否が決まる。
「やらない方がいい」を言ってくれるベンダーは、つまり、御社の予算と人手を計算した上で話している、ということです。
初回面談で、試せる質問が一つだけある
中小企業の経営者・情シスの方が、ベンダー選びの初回面談で試せることがあります。
困っていることを3つ並べて、「この中で、お金をかけずに済むものはありますか」と聞いてみる。即答で「全部やりましょう」と返ってくるか、「これは内製でいけます」「これは ChatGPT の月額プランで十分です」「これは順番として後でいい」と分解されるか。たぶん、そこに全部出ます。
技術力の話というより、相手の業務への敬意の話だと思っています。AI導入のほとんどは、技術ではなく敬意で決まる。私自身、まだ十分にできていないと感じる毎日です。
御社のベンダー選定で、似たような経験はありませんか。「全部できます」と即答されて違和感を持った話でも、逆に「やらない方がいい」と言われて選んだ話でも、ぜひ伺いたいです。
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