97%が毎日使うAI組織を作った方法とは?「思考OS×コンテスト」戦略

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97%が毎日使うAI組織を作った方法とは?「思考OS×コンテスト」戦略

建築総合コンサルタントの株式会社翔設計が、独自の「翔設計標準思考OS」とAI活用実技コンテストで全社員の97%にAIを定着させた取り組みを紐解きます。

「AIを入れたのに、一部の人しか使っていない」その悩み、翔設計も乗り越えてきました

「AIツールは導入したけれど、詳しい一部の社員しか触っていない」「現場は結局、何に使えるかピンときていないようだ」

こうした声は、業種や規模を問わず多くの企業から聞こえてきます。

ところが、建築総合コンサルという「非IT」の専門家集団でありながら、全社員の約97%が日常的にAIを使う組織があります。 社員数115名に対して月間のAI利用総数は1万回を突破したと言う株式会社翔設計。

今回は、2026年4月に翔設計のIT部門として分社化した新会社・株式会社翔ITソリューションの代表取締役の濱田千歳氏にお話を伺いました。

社員が自発的にツールを改良し、自作アプリがバージョン12まで進化した背景にあるのは、最新技術の力技ではありません。

現場の思考プロセスに丁寧にクラッチを合わせた、きわめて人間くさい取り組みでした。

翔設計という会社と、翔ITソリューション設立の背景

建築設計の専門家集団が「IT推進者」を育てるまで

株式会社翔設計は、建築設計とコンサルティングを手がける約100名規模の会社です。 当然ながら、社員の多くは建築の専門家であり、ITの専門家ではありません。 いわゆる「非IT企業」の典型的な人員構成と言えます。

そのなかで、長らく社内システム導入を担ってきたのが濱田千歳氏です。 約10年前に入社し、DX推進担当として、一人のシステム担当者がどう社内にITを浸透させるかを考え続けてきました。

そして2026年4月1日、濱田氏を代表取締役として新会社「株式会社翔ITソリューション」が設立されます。 インタビュー時点でまだ設立8日目という、できたてホヤホヤの会社でした。

新会社の2つの目的

翔ITソリューションの設立目的は、大きく2つあります。

ひとつは、翔設計グループ全体のITガバナンス整備です。 もうひとつは、グループ内で培った技術と知見をパッケージ化し、協力会社や取引先、他法人向けに提供していくことです。

背景にあるのは、急速に広がる情報サイロ化への危機感でした。 翔設計グループは新規事業の立ち上げが続いており、約2年前には株式会社フィールドコンストラクション(工事会社)を設立。 各事業会社がそれぞれ都合のよいサービスを個別に導入すると、後々データが分散して連携できなくなります。

 謙虚な口ぶりで、濱田氏はこう話します。

「非IT系の会社としては、ある程度頑張って取り組んでいるところかなとは思います」

この控えめな自己評価と、後述する97%という数字のギャップ。 翔設計の取り組みの本質は、まさにここに現れています。

AI導入前の課題 情報サイロ化と「創造的な時間」の不足

事業部ごとにツールが増え、知識が孤立していく

翔設計グループが抱えていた課題は、多くの成長企業と共通するものでした。 新規事業が立ち上がるたびに、その事業部が便利だと思ったSaaSを個別に契約していく。 気がつけば、隣の部署が何を使っているか誰も把握できていない状態に陥ります。

濱田氏は、この構造をこう説明します。

「各事業部が自分たちの利便性だけを考えてサービス導入したり、システム構築したりしていくと、後々情報のサイロ化を生み出すという問題がありますので、グループ全体を統括したIT管理を担っていくことも私の役目の1つであります」

単なる重複投資の問題ではなく、非IT企業にとって管理ができていないという点で致命傷でもあります。

2025年8月27日 社長による「AI活用宣言」

こうした状況を一気に動かしたのが、2025年8月27日の社長による「AI活用宣言」でした。 翔設計グループの社長が、全社に向けてこう宣言したのです。

「AIにできる仕事はAIに任せて、自分たちは真に創造的な仕事をしていくんだ」

重要なのは、宣言の強さだけではありません。 前提として「創造的な時間を取り戻す」という目的が明確に言語化された点です。

単純作業に追われて企画やデザインに割く余裕が失われている、多くの設計会社が抱える痛みに、真正面から向き合う姿勢の表明でした。

この宣言を起点に、翔設計のAI活用は一気に加速していきます。

「翔設計標準思考OS」が現場を変えた

名前を呼び、役割を理解して、相手の性格まで読む

AI活用宣言の後、翔設計の現場で何が起きたのか。

中心にあるのは、濱田氏自身が設計した独自のカスタムAI「翔設計標準思考OS」です。 Google Workspace with Gemini (以下、Gemini)の Gem 機能(指示書を読み込ませて役割を持たせるカスタマイズ機能)を活用して作られており、約2万文字のプロンプトで作り込まれています。

このOSの特徴は、AIが一人ひとりの社員に「寄り添って」くれることです。 利用者が会話を始めると、まずAIが名前を確認します。 その後、社内のナレッジデータベースから所属部署・参加委員会・担当ミッションを読み込みます。

もう一段踏み込んだ仕掛けが、全社で約2年前に実施したDISC診断(相手の行動特性を4タイプで把握する性格診断)の結果もデータベースに組み込んでいる点です。

社員が「このプロジェクトの関係者とどう調整すべきか」を相談すると、AIはこう答えます。「相手はDタイプなので、結論から先に述べるのがおすすめです」。

AIが「どこのだれ向けに話しているか」を理解して返してくれる。 この一歩踏み込んだパーソナライズが、AIを「よそ者」から「頼れる相棒」に変えました。

「壁打ち相手」としてのAI。4段階統合弁証法

翔設計標準思考OSには、いくつかの思考フレームワークもオプションとして組み込まれています。 たとえば「@6h」というキーワードを打つと、6シンキングハットが起動します。 白・赤・黒・黄・緑・青の6視点で発想を広げる手法です。

なかでも濱田氏がとくに力を入れたのが、独自の「4段階統合弁証法」です。 定説(テーゼ)を語るペルソナと、反論(アンチテーゼ)をぶつけるペルソナを用意します。 AIの内部でこの2つを対話させ、最終的に統合された視点を導く設計です。

たとえば、テーゼ側には「理想的な経営思考を持つ経営者」のペルソナを割り当てます。 一方のアンチテーゼ側には「現実的な指摘をするアナリスト」を用意します。 ユーザーが「ネクスト」と入力するたびに、AIは次の段階へと議論を進めていきます。

濱田氏は、その意図をこう語ります。

「AIに壁打ち相手として、自分の思考を深める手助けをしてもらう。そこに特に力を入れて作ってみました」

動的ペルソナと「手弁当」の限界

もうひとつの工夫が、質問内容と質問者の背景に応じてAIが自動でペルソナを切り替える「動的ペルソナ」です。 たとえば「胸が痛いのですが、どうしたらいいですか」という質問を投げかける。 医師のペルソナなら「最近、眠れていますか」と聞き返します。 心理学者のペルソナなら「びっくりするようなことがありましたか」と返します。 全社員がペルソナ設定に慣れていなくても、文脈に合った回答が返るよう仕掛けた工夫です。

ただし、このOSには課題もありました。 プロンプトが約2万文字と重いため、日常の細かな質問には不向きで、深い思考を求められる戦略資料の作成などに絞って使う運用にしています。

ナレッジデータベースの形式も試行錯誤の途中です。 当初はYAML形式で管理していましたが、AIには読みやすい反面、人間には編集が重荷でした。濱田氏はこう振り返ります。

「(YAMLは)AIにちょっと寄りすぎたなって反省ですね」

現在はスプレッドシートへの移行を検討中です。「完璧なAIを作る」のではなく、「人とAIのあいだの接点を少しずつ調整する」。 この姿勢が、現場の信頼を積み上げています。

「背景まで読む」対話型議事録生成ツールが生んだ思考のアーカイブ

質問の精度ではなく、仕込みの精度で勝負する

翔設計標準思考OSと並ぶ、もうひとつの代表的な取り組みが「対話型議事録生成ツール」です。 よくある議事録AIとの違いは、単なる要約ではなく「会話のニュアンスや背景」まで含めて記録する点にあります。

濱田氏の発想は、一般的なプロンプト術と正反対です。 プロンプトの注意点として「質問時にペルソナを指定し、背景情報を添えて聞きましょう」と語られることも多々あると思いますが、濱田氏はこう言います。

「背景情報をきちんと登録さえしておけば、シンプルな質問をしても、むしろ私が考えてもいないような背景まで見て、回答してくれるんです」

毎回プロンプトを工夫する負担を下げるために、事前の「仕込み」でカバーする。 質問するたびに長いプロンプトを打つのは面倒ですし、人によって質が揺れます。 ナレッジ側に文脈を預ければ、シンプルな問いでも深い答えが返ってきます。

AIに「思考プロセスを宣言させる」ハルシネーション対策

もうひとつの特徴が、AIに自分の思考プロセスを明示的に宣言させる設計です。 回答の冒頭で「こういった背景があったので、こう考えて、この視点で回答します」と説明する。 これだけで、的外れな回答(ハルシネーション)が大きく減ると濱田氏は話します。

また、Gemini で一度に膨大な議事録を処理させると精度が落ちる傾向があったため、対話を段階的に分けています。 まずログを貼り付け、次に全体概要を分析させ、最後に詳細を深掘りしていく。 こうして蓄積された会話ログは、将来の質問に文脈豊かに応える「ナレッジアーカイブ」の土台にもなっていきます。

AI活用実技コンテストが起こした「開発の連鎖」

賞金10万円と「査定に影響する」の二本立て

2025年8月のAI活用宣言から約5ヶ月後、2026年1月に「AI活用実技コンテスト」が開催されました。 このコンテストには明確な設計意図がありました。

まず、全社員に参加を義務づけるために、期限までに作品を提出しなかった場合、査定に影響する旨を社長名で宣言。 濱田氏が言葉を選びながら、こう振り返ります。

「強制力を働かせた…少し荒いやり方ですがトップダウンで断行したのが、良かったかなと思っています」

一方で、インセンティブも用意されました。 優秀者3名には各賞金5万円、グランプリには賞金10万円が贈られます。 表彰式は2026年4月1日、新年度全体会議で実施しました。

評価は2軸で行われました。 ひとつは作品そのものの質。もうひとつはAIとの対話ログ解析です。 AIが回答しがちな定番の回答にそのまま従うのではなく、「自分の考え」を織り込んで壁打ちできているか。 壁打ちの質を5項目で採点する、かなり踏み込んだ評価設計です。このコンテストの時だけ使えば良いものではなく、通常業務の中で使ってほしい思いがありましたので対話ログも解析していきました。

数字で見るBefore/After

コンテストの時だけ利用が活発になっても意味がなく、いかに社員に根付くのか。コンテスト終了後の3月のデータを取ってみると、97%の人がAIを活用していることがわかりました。

「月間利用総数が1万回を突破して、社員が100名ぐらいなので上等だろうと思っています」(濱田氏)

バージョン12まで進化した現場ツール

もうひとつの「嬉しい誤算」が、コンテストをきっかけに生まれた開発の連鎖でした。 ある社員が、現場写真をアップロードしコメントを入力すると、図面付きPDFを自動生成するツールを自作しました。

建築総合コンサルならではの、現場ニーズを直撃する発想です。 このツールを社内ポータルに掲載したことで、別の社員が解析し、機能を追加。 さらに別の社員が改良を加え…という連鎖が続き、今ではver12に到達しています。

「非IT企業で、トップダウンで始まったコンテストから、こんなボトムアップな動きが生まれるとは私の中でも嬉しい驚きでした」。 濱田氏自身も予想していなかったと言います。

「非IT企業で、トップダウンで始まったコンテストから、こんなボトムアップな動きが生まれるとは私の中でも嬉しい驚きでした」。 濱田氏自身も予想していなかったと言います。

3点セット+勉強会という構造

翔設計の97%達成に向けた取り組みを整理していくと、地に足の着いた、再現性のある3点セットです。

さらに地道な下支えとして、昨年度は9回のAI説明会(勉強会)を開催しています。

Gemini(※) は入力したデータが学習に使われないという基本的な説明や Gem や NotebookLM の概要説明。なかでも好評だったのが Gem を活用したプレゼン資料の作り方でした。HTML形式でスライドを組む手法も紹介しましたし、NotebookLM の動画生成などはみんな驚いていましたね。この地道な説明会を継続していくことで「AIを使うと自分の仕事が楽になる」という実感を社員一人一人に刷り込んでいきました。

濱田氏がこの3点セットを組み立てられた裏には、10年にわたり翔設計の社内システム導入を担ってきた経験があります。 DX推進担当として社内の温度感を肌で知っていたからこその判断がありました。

「私からは言えなかったので、社長の力を借りた。トップダウンにするというのは、ずっとやってきたことでした」

組織のAI活用がうまくいっている共通点の1つがトップダウンです。ツールを入れたら終わりではなく、組織のどこでどう利用していくのか。現場担当者の苦労は計り知れませんが、社長や組織のトップと連携して推進していくことが有効です。

次のAI活用におけるテーマは「量」から「質」へ

一方で濱田氏は、次の課題もすでに見据えています。

「AIの利用回数を追う段階はもう終わったと判断しました。今期はもっと活用のレベルをきちんと把握しないといけない。それをどう観測していくかが、今期の私の課題のひとつです」

利用率97%という数字は到達点ではなく、通過点。 どれだけ深く、業務のどこでAIが使われているかをつかみ直すフェーズに入っています。

手弁当のAIから組織の「脳」へ

「手弁当」からエンタープライズ環境へ

ここまで紹介した翔設計標準思考OSについて、濱田氏自身は謙虚な自己評価を下しています。

「ジェム(Gem)は、本格的なナレッジデータベース環境を構築する前の、手弁当なものだという認識で私も作っています。やっぱり次のステップに進みたいですね」

次の一歩は、Gemini Enterprise App(AIエージェントプラットフォーム)への移行です。 2026年5月中にトライアルを開始予定で、1ユーザー単位から契約できることも確認済み。 段階的に、幹部への説明と同意を取りながら慎重に進めていく構えです。

Gemini Enterprise App では、個人のプロフィールや役割情報がデフォルトで連携できる設計になっています。 いわば、翔設計標準思考OSで手作業で実装してきた仕組みが、標準機能として提供される世界。Slack などのサードパーティー製品にも連携ができる点にも期待しています。また、AIエージェントも簡単に作成できるようなので、様々なエージェントを作成することで社員には創造的な仕事に時間を使ってほしいと願っています。「手弁当」で試行錯誤してきた経験があるからこそ、Gemini Enterprise App への移行もスムーズに進められそうです。

Claudeは「より深く使う人間」向けに

最後に Gemini 以外の活用について聞いてみたところ、AIの使い分けについても、リアルな検討が進んでいるとのことでした。 メインは Gemini のまま。 そこに、コード生成の得意な Claude を少数ユーザー向けに追加する案です。

きっかけは、ある具体的なエピソードでした。 Slack の投稿時間表示が「30分前」「昨日」と相対表示になっている問題。 これを解決するために、JavaScriptの Chrome 拡張機能を作ろうとしたときのことです。 Gemini に依頼したところ、なかなかバグが取れず難航しました。 ところが同じ質問を Claude に送ったら、一発で動くコードが返ってきたと言います。 「やっぱり得意分野が全然違うんだな」という学びでした。

「Claude もそういった意味で、より深くAIを使っていく人間に対しては提供しようかな、と考えています」

すべてのツールを一律に全社導入するのではなく、使い手の熟度に合わせて選ぶ。 ここにも翔設計らしい、現場目線の判断が貫かれています。

現場の業務に、丁寧にクラッチ を合わせる。翔設計のAI定着から学べること

翔設計の取り組みを振り返ると、特別なことは見当たりません。 ただし、他の組織が見落としがちな工夫がいくつも積み重ねられています。

現場の性格診断や個人ミッションまでナレッジに取り込む粘り強さ。 トップダウンの宣言と、ボトムアップの開発を両立させる設計の妙。 YAMLを諦めてスプレッドシートに戻す、という小さな試行錯誤。 「手弁当」と自己評価しながら、次の環境への移行を現実的に描く冷静さ。

どれも、AIの性能に頼りきっていては生まれない工夫です。

自社で再現するための4ステップ

最後に、読者の組織で翔設計の手法を試すためのステップを整理しておきます。

Step1:現場で失われている「創造的な時間」を特定する

どの作業が社員の思考時間を奪っているかを可視化します。

Step2:経営トップからAI活用の方針を短い言葉で宣言してもらう

「AIにできる仕事はAIに任せる」のような一言でかまいません。

Step4:自社の文脈を1つだけ学ばせたカスタムAIを作る

組織図・委員会・個人ミッションなど、社員が知っている情報を1枚に書き出して読み込ませます。

Step4:全員参加型のAI体験イベントを設計する

 コンテスト・勉強会・表彰のいずれかを組み合わせ、強制力と報酬を両輪で設計します。

まずは小さく、Step1から始めてみてください。 AIの技術選定よりも先に、組織の温度感を測るところから始めるのが有効かもしれません。

このようなAI活用の取り組みを貴社でも実現しませんか?

「AIを導入したものの活用が進まない」「自社の業務に合ったプロンプト(Gem)の作り方がわからない」という方はぜひお気軽にお問い合わせください。

執筆者

鈴木 翔太

鈴木 翔太

株式会社USEN ICT Solutions IaaS&DCプロダクト部 部長
AI Clutch 副編集長

2008年、株式会社USEN(現:株式会社USEN ICT Solutions)入社。法人向けICTソリューションの最前線でキャリアを積み、IaaS事業の立ち上げを牽引。クラウドがビジネスの標準となったように、AI活用に対しても強い確信を持つ。2023年の生成AI台頭以降は、Azure OpenAI Service(AOAI)や Vertex AI を駆使したAI実装支援に従事。「AIをいかに実務へ溶け込ませるか」を追求し、顧客課題の解決と新たな価値還元をミッションとしている。現在は「AI-Clutch」の副編集長として、技術とビジネスの架け橋となる情報を発信中。

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