【TD SYNNEX株式会社 インタビュー】Microsoft 365 Copilot が業務と組織を変える理由(前編)

「生成AIを導入したものの、ブラウザーを開いてチャットを打つのが面倒で形骸化してしまった」「社内データの漏えいが怖くて、現場への展開に踏み切れない」
今、多くの企業が「AIシフト」の第二段階とも言える壁に直面しています。
今回は、長年にわたり企業のITインフラ構築と最新ソリューションの普及をけん引してきたディストリビューター、TD SYNNEX株式会社の青野 崇晃 氏にお話を伺いました。
前編では、なぜ今「Microsoft 365 Copilot」がビジネスパーソンにとって選択肢になり得るのか、日常業務への定着を阻む課題と、具体的な活用シナリオを中心に伺います。
取材協力
青野 崇晃 氏
TD SYNNEX株式会社
コマーシャルセールス部門 アドバンスドセールス本部 GTMチーム チーム長
1.チャットAIの限界を突破する「いつものアプリで動く」というパラダイムシフト
一般的な生成AIチャットが普及する一方で、「なかなか日常業務に定着しない」という企業の声をよく耳にします。このボトルネックはどこにあるとお考えでしょうか。
青野 氏:一番の理由は、従来の生成AIが「日常の作業動線から孤立していたこと」にあります。これまでの一般的なAIチャットツールを使う場合、ユーザーは以下のようなスイッチング(画面切り替え)を強いられていました。
- Excel や Word などの作業画面から、ブラウザーの別タブへ移動する
- 状況や背景(コンテキスト)をはじめから説明する長文のプロンプトを入力する
- 出力されたテキストをコピーし、元のアプリにペーストしてフォントや体裁を整える
この数ステップの往復が想像以上の負荷をかけ、結果として「自分でやったほうが早い」という諦めを生んでいたと考えます。
Microsoft 365 Copilot がもたらした最大のパラダイムシフトは、このスイッチングコストをゼロにした点です。Word、Excel、PowerPoint、Outlook、Teams といった、ビジネスパーソンが1日のうち最も長く視線を注いでいる画面そのものにAIが組み込まれています。
「別のツールを開かなくていい」というのは、一見シンプルですが強力な強みですね。
青野 氏:そうなんです。地味に聞こえるかもしれませんが、これが業務効率化において決定的な差となります。
例えば、メールの返信文を作りたいとき、Outlook の作成画面の中に Copilot のアイコンがすでに待機しています。そこをクリックするだけで、これまでのメールのスレッドの流れをくんだ返信案をその場でおすすめする。この「ユーザーの作業文脈(コンテキスト)を最初から理解している」という設計が、本質的な業務効率化を実現するのです。
まさに「自分の仕事の隣に常に座り、今見ている画面を一緒に眺めてくれている専任のアシスタント」と言えますね。
2.徹底比較:「3つの Copilot」何が違うの?
市場には「Copilot」と名のつく製品が複数存在するため、ライセンス選定で迷う企業も多いと思いますが、それぞれの位置づけと機能差を教えてください。
青野 氏:確かに、名称が酷似しているため混同されやすいですね。現在「Copilot」には大きく分けて3つの選択肢があります。それぞれの機能制限とデータ保護の範囲をマトリクスで比較すると、その違いが明確になります。
【Copilot ブランドの機能・セキュリティ比較】
機能・セキュリティ項目 | ①Microsoft Copilot(無償版) | ②Microsoft 365 Copilot Chat(追加費用なし版) | ③Microsoft 365 Copilot(有償アドオン版) |
|---|---|---|---|
最新LLMによるテキスト・画像生成 | 〇 | 〇 | 〇 |
商用データ保護(EDP)※ 入力テータの非学習化 | — | 〇 | 〇 |
社内 Graph データへのアクセス※ メール・Teams・SharePoint の横断検索 | — | — | 〇(完全対応) |
Office アプリ内への直接組み込み※ Excel や Word の画面上での動作 | — | △(Web版の一部のみ) | 〇(完全対応) |
Copilot エージェントの作成・実行※ 自社専用AIへのカスタマイズ | — | — | 〇(完全対応) |
パーソナライズ機能(WorkIQ)※ ユーザーの業務文脈の理解 | — | — | 〇(完全対応) |
※ 本記事に記載の機能・仕様は2026年6月時点の最新アップデートに基づいています。

青野 氏:①の無償版は、インターネット上の公開情報のみをベースに回答するもので、個人利用向けです。
②「Microsoft 365 Copilot Chat」は、企業向け Microsoft 365 ライセンスに標準付属しており、データが漏えいしない仕組み(商用データ保護)は備わっていますが、アクセスできるのはあくまで「一般のWeb世界の情報」だけです。
これに対し、③の有償アドオン版である「Microsoft 365 Copilot」は、企業のローカル資産である「Microsoft Graph(社内の全データ資産、組織図、やりとりの履歴)」に直接アクセスします。
「〇〇プロジェクトの進捗状況を教えて」と尋ねたとき、②までは「インターネット上にそのような情報はありません」と返ってきますが、③であれば「先週Aさんがアップロードした提案書と、B課長が Teams で発言した内容によると、現在はフェーズ2の段階です」と、自社固有の回答を返してくれます。
企業の競争力を生み出すのは社内データですから、ビジネスを本気で加速させるなら、選択肢は実質的に「Microsoft 365 Copilot」の一択になります。
3.【実務シナリオ】営業企画部・Aさんの1日から学ぶ、生産性向上のリアル
実際に Microsoft 365 Copilot を導入した企業では、現場の業務がどのように変化するのでしょうか。具体的なユースケースを交えて教えてください。
青野 氏:仮の話となりますが、ある企業の営業企画部・Aさんの1日を追ってみましょう。
彼は、過去の社内知見のキャッチアップ、経営陣向けの事業計画書の策定、そして毎月のルーティンである売り上げ分析と、膨大なタスクに追われています。ここに Copilot が介在することで、業務の質と速度がどう変化するかをご説明します。

シーン1:社内知見の高速キャッチアップ(情報収集の自動化)
課題:過去のメール、Teams、SharePoint に散らばる「文脈」を追うだけで午前中が終わる。
青野 氏:新しいプロジェクトにアサインされたとき、まず行うのが過去資料の掘り起こしですよね。ファイルサーバーの奥深くにある「古いパワポ」を探したり、前任者のメールを検索したり、挙句の果てに「あの件、どこにありましたっけ?」と忙しい同僚にチャットして嫌がられる。これだけで1〜2時間は容易に吹き飛びます。
Aさんが Microsoft 365 Copilot(Teams や Microsoft 365 Chat 画面)を使う場合、このように指示を出します。
【プロンプト例】
わが社が過去2年間に実施した、ECサイト立ち上げに関する検討フェーズの資料、およびその際に見送りとなった理由が記載された Teams のディスカッションを要約して、箇条書きで3点にまとめてください。
青野 氏:これだけで、Copilot が「セマンティックインデックス(意味的インデックス)」を活用し、複数人のメールや SharePoint 内のPDF、Teams のログを横断して、見落としがちな敗戦の弁や注意点を一瞬でリストアップします。
さらに WorkIQ という機能が、Aさんの所属や現在のプロジェクトの文脈を学習しているため、一般的な検索エンジンのような「キーワードの部分一致」ではなく、今のAさんが本当に知るべき文脈にフォーカスした要約文を作成してくれるのです。
シーン2:事業計画書の超高速ドラフト(資料作成のパラダイムシフト)
課題:言いたいことは決まっているが、PowerPoint の構成を考え、スライドの体裁を整える「作業」に時間を奪われる。
青野 氏:情報が集まったら、次は経営会議向けの事業計画書の作成です。多くの場合、白紙の画面を前にして「構成はどうしよう」「1枚目の見出しは……」と悩む時間が大半を占めます。
ここでAさんは、Copilot in Word、および Copilot in PowerPoint を起動します。
【プロンプト例(PowerPoint の場合)】
SharePoint 内の『EC事業検討メモ.docx』をベースに、経営会議向けの『新規EC事業計画書』のスライドを8枚構成で新規作成してください。デザインはプロフェッショナルでクリーンなトーンにし、各スライドにはスピーカーノート(発表者控)も付与してください。
青野 氏:このワンフレーズで、テキストの箇条書きデータから、視覚的に洗練されたスライドの骨子が自動生成されます。もちろん、AIが作ったものが100点満点である必要はありません。
「4枚目のスライドをさらにビジュアル重視に変更して」「トーンを少しフォーマルな表現に差し替えて」と、アプリ内の Copilot ウィンドウに追加でチャットを送るだけで、AIがレイアウトや文言をリアルタイムに修正してくれます。
「ゼロから1を作る面倒な作業はAIに丸投げし、人間は60点で出力された成果物を80点、100点へと磨きあげる編集作業に集中する」これが資料作成の新しいスタンダードです。
シーン3:関数不要のデータマイニング(Excel 集計と属人化の解消)
課題:数万行の売り上げデータから、計画とのギャップ原因を特定したいが、ピボットテーブルや複雑な関数(XLOOKUP、SUMIFS)の組み直しが属人化している。
青野 氏:月次や週次の営業レポート作成は、どの企業でも発生する重労働です。データを集計するだけで疲れ果て、肝心の「なぜ売り上げが落ちたのか」「次にどう手を打つべきか」という考察にまで頭が回らないケースが多々あります。
Aさんは Copilot in Excel を活用し、数万行に及ぶEC売り上げデータのテーブルに向かって、自然な日本語で話しかけます。
【プロンプト例】
このテーブルのデータを基に、カテゴリ別の売り上げ構成比を算出する新しい列を追加してください。また、前月比で最も売り上げが減少しているカテゴリを特定し、その要因となっている可能性が高いエリア(地域)をハイライトしたグラフを作成してください。
青野 氏:ユーザーが裏側の関数(VBAマクロや複雑な数式)を知らなくても、Copilot が自動でデータを分析し、瞬時に条件付き書式を適用したり、推奨されるグラフを挿入したりしてくれます。
これによる本当のメリットは、時間の短縮だけではありません。これまで「Excelマニアの〇〇さんしか作れなかった複雑な分析レポート」が、誰もが同じクオリティで作れるようになることです。つまり、「業務の標準化」と「脱・属人化」が一気に進むという、組織構造上のメリットが非常に大きいのです。
前編のまとめ
Microsoft 365 Copilot の価値は、単に生成AIを使えることではなく、普段使っているアプリと社内データの文脈の中で、情報収集・資料作成・データ分析を連続的に支援できる点にあります。
後編では、Copilot エージェントによる自社専用の自動化、セキュリティ、ライセンス選定、導入の進め方を掘り下げます。
【TD SYNNEX株式会社 インタビュー】Microsoft 365 Copilot が業務と組織を変える理由(後編)
後編では、その価値をさらに広げる Copilot エージェントと、企業導入で欠かせないセキュリティ、ライセンス選定、導入の進め方を伺います。

インタビュアー

鈴木 翔太
株式会社USEN ICT Solutions IaaS&DCプロダクト部 部長
AI Clutch 副編集長
2008年、株式会社USEN(現:株式会社USEN ICT Solutions)入社。法人向けICTソリューションの最前線でキャリアを積み、IaaS事業の立ち上げを牽引。クラウドがビジネスの標準となったように、AI活用に対しても強い確信を持つ。2023年の生成AI台頭以降は、Azure OpenAI Service(AOAI)や Gemini Enterprise Agent Platform(旧 Vertex AI)を駆使したAI実装支援に従事。「AIをいかに実務へ溶け込ませるか」を追求し、顧客課題の解決と新たな価値還元をミッションとしている。現在は「AI-Clutch」の副編集長として、技術とビジネスの架け橋となる情報を発信中。
