事前準備時間が50%削減!! インサイドセールスの対話の質を変えたAIツール独自開発への挑戦

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事前準備時間が50%削減!! インサイドセールスの対話の質を変えたAIツール独自開発への挑戦

多くの営業組織、特にアウトバウンドが95%を占めるインサイドセールス(IS)において、最大のボトルネックは「架電そのもの」ではなく、その「準備」にあります。AIがその役割を担ったとき、営業の景色はどう変わったのか。当社の取り組みをご紹介していきます。

お客様のホームページを読み込み、最新のニュースをチェックし、課題を推測してトークを組み立てる。一見丁寧に見えるこの「架電前準備(Pre Call Work)」が生産性を削いでいるという現実に、私たちは向き合う必要がありました。

今回は、Google Cloud の生成AI「Gemini API」をフル活用し、営業準備の自動化に成功したUSEN ICT Solutionsの社内プロジェクトの取り組みを、編集部の視点で紐解きます。

インサイドセールス部門が直面していた「3つの壁」

多くの企業のインサイドセールス部門では、架電をする前の下調べにどれくらいの時間を費やしているのでしょうか。当社では「架電前処理(Pre Call Work)」に1件あたり平均3分47秒を費やしていました。1日100件のリストがあれば、それだけで約6時間が「調査」という名の単純作業に消えていく計算です。また、サービスラインナップも年々増えていくために、担当者のスキル差が原因となりパフォーマンスに影響があることがわかっていました。そんな中、このプロジェクトが始動しました。

現場が直面していた主な課題は以下の3つでした。

  1. 膨大な準備時間:1件の架電準備に平均4分弱。1日の大半が「調査」に消えていた。
  2. 属人化するスキル:企業分析の精度が担当者の経験値に左右され、アウトプットの質がバラバラ。
  3. 商材知識の習得コスト:複雑なITソリューションを扱うため、新人が顧客に合わせた提案ができるまでに長い学習期間が必要。

これらを「個人の努力」で解決するのではなく、テクノロジーで仕組み化すること。

それが、AIの独自開発ツール『COMPASS』に課せられた使命でした。

生成AIが実現する自動企業分析

『COMPASS』は、Gemini API(Vertex AI)※1を活用した企業分析レポート生成システムです。

仕組みはシンプルで担当者がターゲットリストをシステムにアップロードするだけで、AIが夜間に一括処理を行い、翌朝には「攻略レポート」が完成しています。

企業情報の抽出

ホームページやプレスリリースから、事業内容や最新動向を瞬時に集約

課題の紐付け

業界特有の課題と自社サービスが解決できるポイントをマッチング

トークスクリプト

相手の役職や想定される悩みに合わせた「刺さる」台本を自動生成

システム構成の概略はこちらの通りです。

サーバーレス コンテナコンピューティング サービスである Cloud Run を用いた環境を取り入れており、運用負荷の軽減という観点も意識しております。

特筆すべきは、その「網羅性」と「速さ」です。夜間に一括処理を実行しておくことで、翌朝には数百件分の「攻略レポート」が完成している状態を作り出しました。

実際にレポートの中身を一部公開しておりますが、顧客のURLをアップロードするだけで、業界の共通課題の洗い出し、業界のITトレンドなど業界固有の情報までを網羅的に抽出してくれています。

当社では150以上のサービスを取り扱っていることから、その課題に対しての打ち手を自社サービスでどう解決するかのストーリーまでをAIが考えて表示してくれます。

これまではインサイドセールス部門の人間が自身で企業を調べて、自身のサービス知識のみでのトークしかできていなかったのが実態でしたが、AIを活用することで150以上あるサービス全てを自分のナレッジとして話すことができるようになったのです。

※1 Gemini API には、Google AI Studio と Vertex AI の2つの種類がありますが、前者は無償枠が多いものの学習に使われる可能性があり、後者は学習に使われることはありません。

COMPASSが導入されたことで、インサイドセールス経験1年弱の子はこう述べています。

「架電前に『このお客様にはこのサービスが刺さる』という仮説が既に手元にある状態で電話できる。自分では考えられなかったことをAIが助言してくれるため、この効果は想像以上でした。」

構想から2年。現場チームが歩んだ開発の軌跡

「架電前の調査を、AIに肩代わりさせることはできないか。」

『COMPASS』の原点となるこの問いが生まれたのは、2024年のことでした。

当時、インサイドセールス部門では架電前処理の非効率さが慢性的な課題として認識されていたものの、具体的な打ち手は見えていない状態でした。

2024年11月に、インサイドセールス部門内で研究チームが発足しました。実際の架電業務を行うメンバーを中心に、日々の業務と並行しながらプロンプト開発をスタートさせたのです。外部のベンダーや専門家に依頼するのではなく、「自分たちの課題は自分たちで解く」という現場発のアプローチ。それがこのプロジェクトを特別なものにしている理由のひとつです。

研究チームが最初に取り組んだのは、社内AIツールを活用したプロンプトの手動実行でした。ターゲット企業のURLをひとつずつAIツールに貼り付け、調査結果とトークスクリプトを出力させる。シンプルな作業の繰り返しのなかで、AIの可能性と限界の両方を肌で学んでいきました。

転機が訪れたのは2025年4月のことです。約5ヶ月のプロンプト開発を経て、それなりの成果を感じていたものの、チームはひとつの現実に直面します。

「1件ずつ手動で打ち込んでいては、時間がもったいない。もっと効率良い方法はないのか」

毎日1000件以上ものリストを処理しなければならない現場において、手作業による実行はボトルネックになりかねません。そこでグループ会社のシステム開発チームに協力を仰ぎ、これまで磨き上げてきたプロンプト資産を活かしながら、完全自動化システムへの転換を決断しました。

2025年6月〜7月には、プロジェクトメンバー3名が実際の架電アプローチ先を対象にA/Bテスト形式の検証を実施。その結果については次章で詳しくお伝えしますが、期待を大幅に上回るものとなりました。

2025年8月1日にインサイドセールス部門アウトバウンドの全架電リストで本格稼働を開始し、翌月9月1日にはフィールドセールス(外勤営業)向けの単一企業分析ツールとしても展開されています。構想から実装まで、約1年。現場の熱量が一つのプロダクトを形にしました。

プロンプト開発の舞台裏。AIを「使いこなす」までの試行錯誤

『COMPASS』の精度を支えているのは、裏側に組み込まれた3層構造のプロンプトです。

しかし、この完成形に至るまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした。

プロンプトは、育てるものだった

開発初期のプロンプトは、驚くほどシンプルなものでした。「このURLを読んで、業界トレンドと提案内容を出力せよ」それだけです。

しかし、実際の業務に使えるクオリティとは程遠いものでした。

そこからチームは試行錯誤を重ね、プロンプトを少しずつ育てていきました。最終的に完成したのは、以下の3段階に分離された設計です。

①企業情報収集プロンプト

対象企業のURLから会社概要・所在地・沿革などを収集し、構造化データとして出力します。

②業界課題・サービス選定プロンプト

業界固有の課題とICTトレンドを分析し、150以上のサービス群の中から最適な提案候補 を絞り込みます。

③トークスクリプト生成プロンプト

①②の情報をもとに、架電者のペルソナ(新卒1年目・緊張しやすい・専門用語が苦手) を踏まえた具体的な台本を生成します。

【壁①】AIが「壊れた」出力を返し続けた

完全自動化を目指す上で最大の難敵となったのが、AIの出力フォーマットの不安定さでした。

システムはAIの出力をそのままプログラムで読み込む設計です。つまり、JSON形式で返ってくることが絶対条件になります。ところが初期の段階では、AIが出力の前後に余計な説明文を付け加えたり、コードブロック記号で囲んだり、末尾に不要なカンマを残したりと、処理を壊す「ノイズ」が頻発しました。

対策として、プロンプトには膨大な制約条件が積み上げられていきました。「不要な説明文は一切含めるな」「出力形式は厳しくチェックすること」プロンプトの冒頭が"禁止事項の羅列"になっていったのは、現場でのエラーが積み重なった証左でもあります。

【壁②】AIが突然ロシア語で回答し始めた

思わず笑ってしまいますが、これは実際に起きた出来事です。

ある時期、AIが一部の出力をロシア語で返すことが続きました。原因の特定に時間を要しましたが、最終的にプロンプトに「ロシア語は使用しないでください」という一文を明示的に追加することで解消されました。些細なことに見えますが、AIを業務システムに組み込む際の貴重な経験となりました。

【壁③】同名の別企業の情報を拾ってしまう

日本には同じ社名の会社が複数存在することも少なくありません。特にURLが不明なケースでは、AIが同名の別企業の情報を誤って収集してしまうケースが発生しました。

これに対しては二重の対策を講じています。プロンプトには「似た名前の会社と間違わないこと。URLなど確かな情報をもとに特定して調査を行うこと」という指示を追加し、さらにシステム側では、URLが存在しない場合にはレポートページ上部に「同名別企業の情報が混ざっている可能性があります」という警告を表示する設計を採り入れました。

【壁④】句読点ひとつが処理を止める

日本語特有の苦労もありました。句読点や特殊文字の扱いです。

読点(、)を誤ってエスケープ処理すると文字化けが起き、逆にシングルクォート(')などの記号をエスケープしないと処理が落ちる。細かな指定が延々と追加されていったプロンプトの中身は、実際にそれで壊れた経験の積み重ねにほかなりません。

完成したプロンプトは試行錯誤の結果ですが、AIツールの活用において、最初からうまくいくとは思わないことが重要だと思います。AIと伴走しながら育てるもの『COMPASS』はその実証例でもあります。

コストの事実:月25,000社の処理をしてインフラ費用は1万円

「AIシステムの構築・運用には、相応のコストがかかるのではないか」

そう思われる方も多いかもしれません。しかし『COMPASS』の実態は、その想像を大きく覆すものでした。

こちらはコンソール画面の画像ですが、実際の1ヶ月分の運用コストです。月間で約25,000社分の企業分析レポートを処理しているにもかかわらず、インフラ費用はわずか1万円以内に収まっています。

1社あたりに換算すると、1円にも満たないコストで企業調査・業界分析・トークスクリプトの3点セットが生成される計算です。

※ 利用モデルにより費用は大きく異なります。
※ 本費用は当社結果であり成果を保証するものではありません。

サーバーレス構成が支えるコスト効率

この低コストを実現しているのが、Google Cloud のサーバーレス構成です。

処理の中核を担うのは Gemini API によるAI分析(Vertex AI)。これに加え、リストデータの一時保管に使う Cloud Storage、そして処理を自動実行する Cloud Run で構成されています。サーバーレスの最大の特長は、処理が走っていない時間には費用がほぼ発生しないという点です。夜間に一括処理を実行するCOMPASSのバッチ設計と、この従量課金モデルは非常に相性が良く、コスト最適化に大きく貢献しています。

人件費換算で見る本当のROI

もうひとつの視点として、削減された「人の時間」も見逃せません。

1コールあたり約2分の削減。これをアウトバウンドの架電数規模で積み上げると、1日あたりの削減時間は組織全体で相当な量になります。人件費に換算すれば、インフラ費用をはるかに上回るコスト削減効果が生まれていることになります。

「使った分だけ払う」サーバーレス構成と、現場発の内製開発。この2つの組み合わせが、AIを「高コストな特別投資」ではなく、日常業務に溶け込んだ実用ツールとして定着させることを可能にしました。

実証データが示す「コール数2倍」の衝撃

このシステムが完成後の2025年6月に行われた導入テストでは、期待を大幅に上回る結果が得られました。

項目

導入前(従来)

導入後(COMPASS)

改善効果

架電前処理時間

3分47秒

1分31秒

約2分16秒の削減

1日の想定コール数

約23件

約44件

約1.9倍に増加

COMPASSを活用することで準備時間が半分以下になった実態があり、担当者は「調査」という単純作業から解放され、本来の目的である「顧客との対話」にリソースを集中できるようになりました。

また、AIが生成する高品質なレポートにより、新卒1年目の担当者でもベテラン層に近いサービス知識をもち、業界課題に対する仮説を立てて高精度でアプローチすることが可能になっています。もちろん、AIがあるからと言って完璧ではなく、お客様との対話することが求められるため補助ツールに過ぎない点は認識する必要があります。

「Buddy(相棒)」としての未来

当初はインサイドセールス部門向けに開発された『COMPASS』ですが、その利便性から現在はフィールドセールス(外勤営業)を担う部署へも展開が進んでいますが、計画されたものではありませんでした。

2025年7月、部門間での定例ミーティングで『COMPASS』の詳細レビューが行われた際、「フィールドセールスでも使いたい」という声がその場で上がり、急遽、単一企業を対象とした分析ツールへの派生開発がスタートしたのです。特定部門のために作られたシステムが、組織の壁を越えて広がりを見せた瞬間でした。

「内製」であることが生んだもうひとつの価値

昨今ではこのようなツールをサービスとして提供する企業も多い状況です。しかし外部に発注していた場合、相応の費用と、現場のニーズが反映されるまでのタイムラグが生じていたはずです。現場メンバーが自らプロンプトを磨き、社内リソースでシステムを構築したことで、コストを大幅に圧縮しながら、現場の感覚に根ざした精度の高いツールを実現することができました。

Google Cloud(Cloud Run・Cloud Storage・Gemini API)のサーバーレス構成を採用したからこそ、固定費を最小限に抑えながら数百件規模のバッチ処理を夜間に自動実行できる設計になっています。「使った分だけ払う」という構造が、小さく始めて大きくスケールするAI活用を後押ししました。

私たちの目指す先は、AIが単なる「効率化ツール」として使われることではありません。AIが営業の「良き相棒(Buddy)」となり、人間はよりクリエイティブで感情的なコミュニケーションに専念できる「Intelligent Sales」を実現することです。

今後も本機能から派生して新たな開発をすることも考えられますが、内製構築をしているからこそ自由に作りこむことが可能であります。

COMPASSを構築した際に得た技術スタック・ノウハウは、特定の業界に限らず応用できます。インサイドセールスに限らず、「調査・分析・文書生成」という繰り返し作業がある部門であれば、同様の仕組みで生産性改善の可能性がありますので、是非ご検討ください。

このようなAI活用の取り組みを貴社でも実現しませんか?

Gemini API や Vertex AI、Google Cloud の環境構築のご相談を受け付けています。

執筆者

鈴木 翔太

鈴木 翔太

株式会社USEN ICT Solutions IaaS&DCプロダクト部 部長
AI Clutch 副編集長

2008年、株式会社USEN(現:株式会社USEN ICT Solutions)入社。法人向けICTソリューションの最前線でキャリアを積み、IaaS事業の立ち上げを牽引。クラウドがビジネスの標準となったように、AI活用に対しても強い確信を持つ。2023年の生成AI台頭以降は、Azure OpenAI Service(AOAI)や Vertex AI を駆使したAI実装支援に従事。「AIをいかに実務へ溶け込ませるか」を追求し、顧客課題の解決と新たな価値還元をミッションとしている。現在は「AI-Clutch」の副編集長として、技術とビジネスの架け橋となる情報を発信中。

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