手書き申込書をAIで文字起こし:Gemini で始める業務改革

手書き申込書の入力作業を Gemini で自動化した実践事例をご紹介していきます。
まだまだ手書き書類を扱っている企業は存在すると思いますが、DXに取り組むうえで、業務内容の棚卸しからAIテーマを発見し、Gem 機能でプロンプトを共有、さらにシステム統合まで段階的に進めたプロセスを、プログラミング知識不要でわかりやすく解説していきます。
手書きの申込書は、まだなくならない
どれだけDXが進んでも、その手軽さから手書きの申込書はなかなかなくなりません。お客様の目の前で、紙とペンだけで申し込みが完了する。この手軽さは、デジタルでは容易に代替しがたいものです。
しかしながら、申込書の管理はデジタル化が進んでおり、社内ツールで管理されているケースが多いことでしょう。
つまり、登録するために手書きの文字を読み取り、手入力している実態があるのです。特別なスキルは必要ありませんが、誰かの時間を確実に奪う仕事です。
本来もっと価値のある業務に使えるはずの人材が、単純入力に時間を使っている。「できないわけではないが、できればやりたくない」と感じるような業務でした。そこで私たちは、AIに任せることを決めました。
「AIを社内で活用したい。」
上司の一言で始まったAI活用プロジェクト。多くの企業で同じような光景はあると思いますが、どの業務にAIを活用すべきなのでしょうか、活用できるのでしょうか。 AI活用の最初の壁は、技術ではなく「テーマ選び」なのかもしれません。
他社事例を追いかけるのではなく、まずは自分たちの業務を棚卸しすることにしたのです。
やり方はシンプルでした。チームのメンバーそれぞれが、日々の業務を書き出しました。そこから「時間を要するもの」「廃止したいもの」「反復作業となっているもの」を洗い出していきました。
その中で浮かび上がったのが、「手書き申込書の入力作業」でした。特別難しい仕事ではなく、高度なスキルが求められるわけでもありません。誰でもできる。だからこそ、ずっと人がやってきた。 しかし、せっかくの人材をこの作業に従事させるのはもったいない。
申込書を電子化することも、お客様の利便性を考慮すると現実的ではありません。かといって、この業務のためだけに人を採用するほどではなく、外部委託する費用対効果にも見合いません。
そんな仕事こそ、AIにやってもらおう。そう考えました。
まずはAIに文字起こしをしてもらう
ここ最近のAIであれば、画像から文字を読み取ること自体は難しくありません。一昔前は苦労した印象ですが今では精度も十分に高く「実現可能性」について悩む段階はすでに終わっていると言われています。
私たちが使ったのは、Google Workspace with Gemini(以下、Gemini)です。Gemini にはマルチモーダル(テキストだけでなく、画像や音声など複数の種類の情報を理解できる能力)が備わっており、手書きの文字が写った画像を送るだけで、そこに何が書いてあるかを読み取ってくれます。
具体的な操作は、こんな流れです。
- 手書き申込書をスマートフォンやスキャナーで画像にする
- Gemini のチャット画面にその画像を添付する
- 「この画像から、申込書の各項目を読み取って一覧で出力してください」と指示を出す
- AIが画像を解析し、指定した項目をテキストで返してくれる
結果は満足できる内容でした。

多少の走り書きであっても、AIは高い精度で文字を読み取ります。これまで1枚ずつ目で追いながら手入力していた作業が、画像を送信して数秒待つだけで文字起こししてくれます。初めて結果を見た際には、チーム内で思わず歓声が上がったほどでした。
「精度にバラつきがある」問題の正体
しかし、これだけでは不十分でした。 組織内で展開する中で、「精度が悪い」「思った通りに答えが出てこない」といった反応が上がりました。
調べていくうちに、AIへ指示を出す能力に個人差があったことに気づきました。 「画像から指定項目を抜き出させる」指示は人それぞれでしたが、AIにはプロンプトと呼ばれる入力形式があります。
部下への指示出しが上手い人とそうでない人がいるように、プロンプトの書き方にも個人差が生じます。
例えば、このような違いがあります。
曖昧な指示の例:
この申込書の内容を読んで
この指示では、どこまで読み取り、何をどのような形式で返せばよいのか判断できません。結果として、あるユーザーは求める情報を得られる一方で、別のユーザーには全く異なるフォーマットで出力されるといった事態が生じます。
具体的な指示の例:
以下の画像は手書きの申込書です。
この画像から下記の項目を読み取り、表形式で出力してください。
- 申込日
- 申込コース
- 申込数量
- 備考欄
読み取れない文字がある場合は「判読不可」と記載してください。
このように、何を、どのような形式で、読み取れない場合の対応まで具体的に指示することで、AIの出力は安定します。
人によってAIの性能が変わってしまう。 業務として考えると、これは属人化を招き、効率化の妨げとなります。 そのため組織内でプロンプトを共通化する必要がありました。
Gem 機能でプロンプトを全員で共有する
1人1人にプロンプトを学ばせる方法もありますが、 私たちは Gemini に搭載された Gem(ジェム)と呼ばれる機能を使って、組織内で統一することにしました。
Gem とは、簡単にいうと「AIへの指示をあらかじめ設定して保存し、チームで共有できる機能」です。毎回プロンプトを書く必要がなく、誰が使っても同じ精度でAIが動くようになります。
Gem の設定は、たった3ステップで完了します。
- 役割を設定する:「あなたは手書き申込書を読み取る専門アシスタントです」のように、AIに担当してほしい仕事を定義する
- 出力形式を決める:「表形式で出力」「読み取れない場合は判読不可と記載」など、出力のルールを指定する
- チームに共有する:作成した Gem をメンバーに共有する。共有されたメンバーは、画像を添付するだけで同じ精度の文字起こしが行える
これによって、誰もが精度よく文字起こしを行えるようになりました。
さらに一歩先へ:システムに組み込む
次に突き当たったのは、手作業の壁でした。
文字起こしはできたものの、画像をアップロードして、返ってきたデータをコピーして、管理システムに貼り付ける。これを申込書1枚ごとに繰り返す。
これまでの成果で文字起こしは自動化されたものの、その他の手作業が発生していることから改善された実感が湧かない。 結局、人がパソコンの前に座って作業していることに変わりがなかったのです。
せっかくのチャンスだということで、ここまでの成果をシステムに組み込んでしまおうと、プロジェクトを一段大きくしました。
考え方はシンプルです。これまで人が手で行っていた「画像をアップロードする → AIが読み取る → 結果を登録する」の一連の流れを、システムが自動で行うようにする。申込書の画像がアップロードされたら、あとはシステムが裏側でAIを呼び出し、読み取った結果をそのまま管理システムに登録してくれる、という仕組みです。

最初の段階では、ここまでは計画していませんでした。しかし、一度始めてみることで自分たちの業務を深く分析でき、「本当はこうあるべきだ」という理想の業務フローが見えてきたのです。段階を踏んでいく必要はありますが、AI活用の先にはこんな未来もあると思います。
手書き資料のAI活用は、申込書だけにとどまらない
こうしてAI画像分析によって業務が改善されました。 今では、送られてきた手書き資料を読み込んだら自動で登録されるようになり、人がこの業務に関わる機会がめっきり減りました。たまに、AIでも判読が難しい殴り書きのような申込書を、人がカバーしながら対応するのみです。
AI画像分析は申込書にとどまらず、さまざまな業務に応用できます。
- レシートの読み取り:経費精算の入力作業を自動化し、月末に溜まった領収書と格闘する時間を削減できます
- 名刺の読み取り:展示会やセミナーで集まった名刺を、顧客管理システムに自動で登録できます
- 明細書の読み取り:紙の請求書や納品書から、会計データを自動で取り込むことができます
私たちと同じように、まずは身近なところで「これ、AIに任せられないだろうか?」と考えてみてください。 最初から完璧な仕組みを作る必要はありません。まず試してみて、出てきた課題に一つずつ対応していく。そのトライ&エラーのプロセスこそが、自社に合ったAI活用を見つける一番の近道です。
最初の一歩が、次のアイデアを生みます。
このようなAI活用の取り組みを貴社でも実現しませんか?
「手書き書類のAI活用に興味がある」「自社の業務でAIを試してみたい」という方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
執筆者

鈴木 翔太
株式会社USEN ICT Solutions IaaS&DCプロダクト部 部長
AI Clutch 副編集長
2008年、株式会社USEN(現:株式会社USEN ICT Solutions)入社。法人向けICTソリューションの最前線でキャリアを積み、IaaS事業の立ち上げを牽引。クラウドがビジネスの標準となったように、AI活用に対しても強い確信を持つ。2023年の生成AI台頭以降は、Azure OpenAI Service(AOAI)や Vertex AI を駆使したAI実装支援に従事。「AIをいかに実務へ溶け込ませるか」を追求し、顧客課題の解決と新たな価値還元をミッションとしている。現在は「AI-Clutch」の副編集長として、技術とビジネスの架け橋となる情報を発信中。
